愚者の後悔
e0087225_2455412.jpg 実家に戻るたびに処分しきれない過去の持ち物をなんとかしなくてはと思うのだが、なかなかまとめて時間をとる事ができない。かろうじて本棚の前に座り込み、読み返したい本を数冊持ち帰るのが関の山。押入の中のがらくたはいつまでたってもそのままだ。
 今回手に取った本の中に『ランゲルハウス島の午後』があった。村上春樹と安西水丸のコラボレーションエッセイ。読み返してみるとなかなか面白い。小説家という職業はさすがに語彙の幅が広いと感心させられる。それより目を見張ったのは安西水丸氏のイラストレーションであり、今見ると何とも味に深みが増して見える事に驚いた。
 氏は私が大学の最終学年の年に講師としてゼミを受け持った。それを聞いて私はデザイナーが第一志望だったにもかかわらずイラストレーションゼミに名乗りを上げた。デザインは就職すればいくらでも学べるが、現役のイラストレーターから学ぶ事は多いはずだと思ったのだ。
 私の記憶に残る氏の言葉の一つにこんなものがある。「同じイラストのギャラをもらうのなら、丁寧にちまちま時間をかけて描くよりも、さらさらと描いた方が楽でいい」と言う趣旨の事だったと思う。人柄で許される発言なのだが、当時はなんて斜に構えた人だろうと驚いた物だ。しかし、今見直してみるとそれはやはり安西水丸だから許される言葉なのだ。緑の固まりをさらさらと数本の線とカラーフィルム(若しくは色指定)で描いて『ブロッコリー』を表現できる人は他にはそういないであろう。
 当時から真剣にイラストレーターを目指していたら、もっと得る所は多かったかも知れない。そう思うのは色々経験したからであり、当時はやはりタロットカードの愚か者のように、それでも自分の足下が見えていなかったに違いないとも思うのだが。


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by marshM | 2009-03-01 23:59 |
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